
「マグマ」に続き、女性企業戦士が第一線で活躍する設定であるが、共に現在大きな問題となっている環境ビジネスを題材にしており、興味深く読んだ。
排出権に関しては、昨年8月本ブログでも触れたこともあり、常々関心があったところ、今回黒木 亮氏著の本書を見かけ、一気に読破した。
本著の紹介文はこうだ
「空気が大金に化ける。これが「排出権ビジネス」の実態だ!
世界11ヵ国に及ぶ徹底した取材で描く、緊迫のリアルフィクション!
温室効果ガス削減か、排出権の購入か。
温暖化防止の美名の下で生まれた、まったく新しい国際ビジネス。
利権に群がるしたたかな商人たちの、ターゲットは日本・・。
排出権。それは温室効果ガスを「排出する権利」。
京都会議で、実現不可能な排出削減目標を負った日本は、莫大な金額で外国から「排出権」を買わなくてはならない。
国民負担は、5年間で1兆円・・。
新日本エンジニアリングの松川冴子は、地球環境室長として排出権ビジネスの開拓を命じられる。
巨大排出権市場・中国を奔走する冴子が、見たものはなにか・・・」
とある。
著者は世界各国に念密な取材をし、その問題点や、裏側の世界も克明に紹介している。
私は、私だけでないと思うが、
京都会議にて、日本は欧米の策謀にあい、過大な目標を背負らされた被害者意識から、
排出権取引に対して、欧米金融機関のマネーゲームであるといったネガティブな印象を持、
排出権に頼らず自国の温室効果ガス削減努力をすべきと考えている。
が、しかし、この制度でこれまで国連に登録(承認)されたプロジェクトは全部で1894あり、産み出される排出権は、年間3億2367万トン(CO2換算)であり、これは日本の年間排出量の1/4程度に相当する。
とのこと。
温暖ガス削減に寄与していることは理解するも、何か、胡散臭い問題があるような気がする。
当初の京都議定書の温暖削減ガス排出枠設定が不公平であり、経済活動の低迷などで温室効果ガス排出量が大幅に減少したことにより、
一部の国では「空気がお金に化ける」現象が出てきている。
第1約束期間の5年間に何もしなくても、ロシアは実に55億トン(11兆円 トン2000円として)、ウクライナは24億トンの余剰枠が転がり込む見込みであるという。
日本は逆に先に述べたように1兆円も支払う必要がある。
なんか釈然としない。
本著を読んだ機会にもう少し「排出権」について整理してみると。
1997年の地球温暖化防止会議で採択された京都議定書では、CO2をはじめとする六種類の温室効果ガスについて、2008~12年の間に、先進国全体で1990年比5.2パーセントの削減を定めている。
日本は、90年比で6%の削減をすることになった。
このことにより、EUや日本を中心として、京都議定書目標達成に必要な排出権は約24億トンと推計されている。
また、供給される排出権は、
国に割り当てられる余剰AAU(Assigned Amount Unit)が約73億トン、
Co2削減プロジェクトにより供給されるCER(Certified Emission Reduction)、ERU(Emission Reduction Unit)が約18億トンであるとされている。
一見、供給量が大きく上回っているように見えるのだが、実際には必ずしもそのようにならない事情がある。
余剰AAUは、GIS (Green Investment Schemes)と呼ばれるスキームにより、政府間における交渉により獲得されるにとどまるとみられており、
その量は10億トン程度になると推計されて,流動性は少ない。
今後の各国における京都クレジットの獲得においては、まずは、CDM/JI(Joint Implementation)から期待される18億トンに的が絞られることとなるであろう。
EUにおける主要国政府は早くからCDMの開発とCERの確保に着手しており、
期待される18億トンの大半がEUにおける需要に充当されてしまうと考えられ、
日本は不足分を、第一約束期間終了間際になってGISスキームにより余剰AAUにより補うこととならざるを得ないであろう。
ただし、そうした状況に陥った時には、もはや価格決定の主導権は日本側にはない。
被害者意識ばかりが先行しているが、もう何とかしなければいけない時期が来ている。
来る12月コペンハーゲンで開催されるCOP15(国連気候変動枠組み条約締約国会議)において1997年12月に決定された京都議定書の枠外である2013年以降の取組みについて論議される予定である。
現状の制度上の問題点、不公平感などがどこまで論議されるのか見守っていきたい。
「排出権商人」 黒木 亮著 講談社 1700円