
最高の人生とはたいそうな給料をもらい、
テキトーに仕事をすることであると、
羨ましい帯のコピーと題名につられて正月に購入した本の中の一冊。
年をとったら悠々自適の生活を!!
誰もが切に願う希望だが、なかなか実現するのは難しい。
この小説は、誰も何もせず、ただ高給をはむだけで、
何の呵責も感じることもない、ハッピーリタイアメントを絵に描いたような、役人が作り上げた天下りの受け皿会社が舞台だ。
その要旨は
「定年を四年後に控えた、しがない財務官僚・樋口慎太郎と愚直だけが取り柄の自衛官・大友勉。
二人が突如再就職先として斡旋されたJAMS(全国中小企業振興会)は、高給のうえに仕事がないという天国のような場所。
仕事は書類の保管。
昼寝OK、外出自由。
法外な給料と2度目の退職金を保証--
ふたりの再就職先は高給のうえに仕事がないという、
まさにハッピーリタイアメントという言葉にふさわしい職場だが、
ふたりは仕事がないという体質に今イチ馴染めずにいる。
秘書兼庶務係としてこの職場を取り仕切っている立花葵は、
彼らの不器用さに呆れながらも、他の天下り役人たちとは何かが違うと感じる。
ある日、教育係となった葵から、
秘密のミッションを言い渡される…。
そして奇想天外な物語が始まる。
これまでパッとしない人生を歩んできたふたりだが、
葵の発案で始めた仕事では予想を越える活躍を見せる。
仕事が順調に進みだすと、立花は「幸福な退職」実現のため、
大胆な計画を二人に持ちかける。
果たしてその計画とは?
そして三人の夢の結末はどうなった?」
なかなか、時を得た面白い設定だ。
この小説は浅田次郎氏の著で
氏が、現代を舞台にした長編小説としては7年ぶりの新刊となるものである。
『鉄道員(ぽっぽや)』や『壬生義士伝』といった読者の心を揺さぶる作品から、“泣かせの浅田”という印象が強いが、
氏に言わせると、シリアルな小説より、自分の本質は“お笑い”であるとのこと。
本書にはその“お笑い”がふんだんに盛り込まれている。
だがこの“お笑い ”はタメなる”お笑い”だからなおさら面白い。
コミカルな内容の中にも、人はどう生きるべきか、なぜ天下りがおきるのかまで踏み込んで、浅田流の社会論が明確に打ち出されている。
昨年の夏の政権交代以降、利権と結び付いた天下り構造の理不尽さがますます明らかになり、
大きな批判を呼んでいるが・・少しトーンダウンし始めている面もあるようだが
浅田氏は天下りの根源は江戸時代あると本書で解説している。
それによると、
「かつてわが国には江戸時代という二百六十年余年に及ぶ平和で幸福な時代があった。
これほど長きにわたり戦争をしなかった国家は、
人類史上に例がない。
平和が長く続けば階級社会が確立し、個々が生まれ育った環境に安住する。
おのおのはその生まれついての職分を適当に全うしていればよく、
なるたけ早く家督を倅に譲り、幸福を貪る「隠居」となればよいわけである。
明治維新になり、列強についていくために、富国強兵、産業復興をすすめ、旧制度は崩壊するわけであるが、
制度は変わっても長く続いた習慣は容易に変わらない。
明治以降、行政機構も民間企業も欧米流の三角形ピラミッド型の近代的組織に改変されたが、
古い永い安泰な生活の習慣から生まれた世襲制と終身雇用制とが矛盾をはらみながら運営されてきた。
第二次世界大戦が終わるまでは資本主義社会は膨張し続けてきて、
国も企業も三角形の組織を大きくし、または次々と派生させてきたため人的な問題は起きなかった。
しかし、戦後大きな拡大が期待できなくなった日本の社会は、
大きな企業は"子会社“、行政の役人たちは”天下り“という制度で、古き習慣をも満足させながら、三角型組織を維持してきた。
問題は民間の"子会社“は従業員の賃金を大きく低減し、
厳格な作業環境の下利益を追求しようとしているに反し、
"天下り”は国の税金のもと、高給と厚遇を約束し、そしてなんら経営責任を負わない、いい加減な、破廉恥な、不条理なまでに楽チンな組織体となっていることである。
それでは、どうすればよいのか?
著者はある対談記事の中で、基本的に人は年を取ったら悠々自適に遊ぶべきですと言い切る。
もちろん幸福すべてはお金で買えるわけではない。
本書の中で、いつまでも権力や金に固執する矢島という人物が出てくるが、彼はストレスの塊で、不幸な人生の象徴。
二人の主人公が彼を不幸と見切り、目覚めるというのが小説の主旨なのです。
仕事をすることに生きがいを見いだすのは否定しませんが、それだけでなく、趣味に生きるとか、
本当にやりたいことをするのが本当の“仕事”だと思います。
30、40年も勤めてきた惰性だけで働くのは貧しいでしょう。
と述べていた。
私も意を強くして、ダイビングに勤しもうか・・・
でも先立つものが
「ハッピー・リタイアメント」 浅田次郎著 幻冬舎 1500円