
前回のブログに書いたように、世界の深海には熱水噴出による鉱床やその他の資源が多く眠っているのが分ってきた。
日本の領海でも沖縄および小笠原の近傍で数多くの熱水鉱床が発見されており大いに期待されている。
が、現在起きている沖縄の尖閣諸島問題も中国が勝手に領有権を主張し、
小笠原の沖ノ鳥島は「岩」であり日本のEEZ(排他的経済水域)は認められないと言い張るのも、
(自分は南シナ海の赤瓜礁(ベトナムが統治していたが1988年中国が武力により略奪した)の岩周辺に人工建造物を作り、EEZの存在を既成事実化しているのに)
更には、最近では周辺国の思惑を無視して、台湾やチベット問題に使う「核心的利益」という表現を南シナ海にも用い始め、
権益確保の姿勢を鮮明にしようとしているのも、
中国が、新しく発見された海底の金属、エネルギー資源を我が物にしようとするためである。
本当に傍若無人の気をつけなければいけない隣人だ。
さて、前置きが長くなったが、今回読んだ本のテーマは、
今話題にした海底熱水鉱床と違った、近発見された、
ロストシティーと呼ばれる、地球生命の進化の起源の場所ではないかと注目されている、高さ30mにも及ぶ白い新しいタイプの熱水噴出孔がテーマだ。
ここで簡単に本の内容を紹介すると
フランス・アルプスの氷河で、100年前のものと思われる氷付けの遺体が発見され、
近くの湖に沈んでいた飛行機からその遺体は武器商人の親族と推測された。
一方、大西洋で発生した海藻の異常繁殖が世界的に拡大し、地球が壊滅的な被害を受ける恐れがあり、
研究者達が原因を調査するため、大西洋中央海嶺にあるロストシティーに向うが、拉致されてしまう。
一味はロストシティーで密かに発見された酵素を使って、身の毛もよだつ人体実験をしていたのだ。
両方の事件は裏で武器商人一族に結びついており、この陰謀をあばくため、一族の本拠地に乗り込み首領と対決する。
そこで、一味の人体実験の目的、海藻の異常繁殖の真実、そして最終目的が何かを聞かされる・・・・・。
内容は快適なノリの良いアクション物で超人的な主人公たちが、車、飛行機、ヘリコプター、そして潜水艇まで駆使して悪者と戦う、
勧善懲悪のいつものストーリーである。
単なるアクションものと言ってしまえばそれまでですが、
10年ほど前に新しく発見され、原始地球での生命の誕生を促した可能性のある場所と示唆されているロストシティーをテーマとして、
そこで発見された酵素を使った不老薬の開発と世界制覇の陰謀を図るというストーリーに仕立ててる斬新性とアイディアには感心させられる。
さて、このロストシティー(失われた海底都市)とはどんなものかと、「日経サイエンス 2010年3月号」では
「2000年12月,大西洋中央海嶺から西に15kmほどの地点にあるアトランティス山塊の頂上の近で、まったく新しいタイプの熱水噴出孔が見つかった。
20階建てのビルに相当する白い柱が林立するその噴出孔は「ロストシティー」と名付けられたが
そのユニークさはそれまで知られていた熱水噴出孔と比べるとよくわかる。
ブラックスモーカーと呼ばれる今までのものは、
噴出孔からは強酸性で400℃以上の熱水が噴き出ていて、
その周りには1mを超えるチューブワームやカニなど,生き物がひしめいていた。
一方,新発見のロストシティーは強アルカリ性で,温度は90℃まで。
何よりも大事なのは,ここでは生物の力を借りずにメタンやプロパンなどの有機物が作られていること。
そして,エネルギーに富んだ水素ガスが噴き出ていることだ。
さらにロストシティーには,太陽エネルギーにも,それを利用した光合成の産物である酸素にも頼らない微生物たちが独自の生態系を作っていた。
最初の生命が誕生した場所は,このロストシティーのような環境だった可能性があると大いに注目を集めている。」
とある。
更に、深海底の熱水噴出孔と、そこに生息する生物の発見は、
地球の生命誕生の謎を解くカギを提供しただけでなく、
宇宙生命の発見につながるかもしれないという。
宇宙生物学者は、同様の環境ならば宇宙でも生命を発見できると推測する。
その条件をほとんど満たしそうなのが、木星の四大衛星の一つエウロパ。
惑星探査機ガリレオの木星探査で、エウロパの厚い氷殻の下に塩水の海があるかもしれなく、そして、木星や他の衛星との引力の影響で常にその水は温かいという。
そうなれば将来の探査で、熱水噴出孔や生物を発見できるかもしれない。
単なる冒険小説が地球プレートテクトニクス、生命の起源、はたまた宇宙生命の発見と誘ってくれるとは・・・。
まさに、読書の楽しさ、面白さだ。
失われた深海都市に迫れ(上・下)
クライブ・カッスラー&ポール・ケンプレコス著
土屋晃訳 新潮文庫 各590円
日経サイエンス 2010年3月号 日経サイエンス社刊 1400円