
前回はヘラクレスの12の功業の最初の「ネメアの獅子退治」(詳細は12月6日付けの私のブログを参照下さい)であったが、
今回は続きの第2話から6話までの5つの逸話についてであった。
簡単に今回の逸話の内容を紹介すると
「レルナのヒュドラ退治」
ヒュドラはレルナの沼沢地帯アミュモネの泉に住む水蛇で、
九つの頭を持ち、しかも真ん中の頭は不死で、残りの頭は首を切るとそこから二つの頭が生えてくる怪物だ。
ヘラクレスは従者だった甥っ子と松明で切り口を焼き、新しい首が生えてこないようにし、不死の首は岩でつぶして封印し、何とか退治した。
「ケリュネイアの鹿の生け捕り」
エウリュステウスの命令は黄金の角を持ち、女神アルテミスに捧げられていた鹿を生きて捕らえる事だった。
ヘラクレスは一年間も後を追って、隙をねらい、河を渡ろうとしている鹿に弓を放ち、前足2本の骨と腱の間を射抜き、一滴の血を流さず捕らえた。
「エリュマントスの猪の生け捕り」
付近を荒らしまわっている巨大で獰猛な猪の退治の話。
猪を茂みから追い出し、深い雪の中に追いやって、動けなくなった猪の背中に飛び乗って捕らえ、生きたまま肩に乗せミケーネに運んだ。
「アウゲイアスの牛小屋掃除」
エリスのアウゲイアス王は巨万の家畜を持っていたが、その家畜小屋には巨大な糞がうずたかくつもっており、これをたった一日で掃除せよという命令。
ヘラクレスは家畜小屋に沿って流れている河を利用し、その水を導入して一気にその糞を押し流してしまった。
「ステュンファロス湖畔の鳥退治」
ステュムパロス湖畔の森に住む、翼、爪、くちばしが青銅でできた怪鳥は凶暴で人間を襲い、排泄物で田畑を荒らす厄介者であり、
これを退治することを命令される。
ヘラクレスは女神アテナがヘパイストスに作ってもらった、鳴り物を吹き、飛び立ったところをヒュドラの毒矢で射殺した。
さて、前置きが長くなったが前述の各逸話にはそれぞれをテーマにした有名な絵画、彫刻があるが中でも印象深かったのが、
ヘラクレスのヒュドラ退治をテーマにした、
フランス象徴主義の巨匠ギュスターヴ・モローを代表する作品『ヘラクレスとレルナのヒュドラ』(1876年シカゴ美術研究所)である。
本作ではキリストをヘラクレスに、ヒュドラを悪魔に置き換へ、悪魔に毅然と立ち向かうキリストを描いている。
画面左側では逞しい体と強固な意志を感じさせる視線を毅然とヒュドラに向けるヘラクレスを配している。
画面右側には九つの鎌首を持ち上げ、ヘラクレスに明らかな敵意を示すヒュドラが配されている。
そしてヒュドラの周辺には己が殺した死体が散乱しており、観る者へヒュドラの獰猛性と強大な力を連想させるが、
背後の岩の谷間から見える太陽はヘラクレス(キリスト)の勝利を暗示させている。
洋の東西を通じて蛇=竜を悪の化身とする話は多い。
日本の場合、神話のヤマタノオロチが多頭の蛇という共通点でヒュドラの話とよく似ており、
また、退治する方法がヒッタイトの神話に似ている。
ヒッタイト神話では、嵐の神「プルリヤシャ」が小屋に酒を瓶に入れて隠し、酒の匂いに誘われて来て、酔いつぶれた、竜の神「イルルヤンカシュ」を斬り殺す。
スサノオの「ヤマタノオロチ退治」の神話と同じである。
恐らく、ヒッタイトの神話が遠く巡り回って日本に伝播されたのであろう。
一方、ヒッタイトの龍退治神話はギリシア神話にもヘラクレスのヒュドラ退治として受け継がれた。
しかし、この蛇(竜)は足を持たない長い体や毒をもつこと、脱皮をすることから「死と再生」を連想させ、
山野に棲み、ネズミなどの害獣を獲物とし、豊穣と多産と永遠の生命力の象徴でもあり、
古来より「神の使い」などとして世界的に信仰の対象でもあった。
だが、なぜか嫌われる。
先日の新聞記事(2010年11月27日:読売新聞)に
「人がヘビを怖がるのは本能」
とする研究結果を京都大学の教授らが発表した。
ヘビによる恐怖体験がない3歳児でも、大人と同じようにヘビに敏感に反応し(蛇の)攻撃姿勢を見分けられることを示したという。
毒を持つ異形な形をした生物を、我々の先祖のサルが木から下り2本足で歩き始めた時から警戒したのであろう。
翻って、現代の我々日本の国民に、悪い政治家を見極める本能が少しでも授かっていればもっといい国になるのだが・・・。