
ダイビングでは私は大物・群れに特段の興味を持っている。
特に小さな魚の群れがあたかもひとつの固まりとなって障害物を避け、外敵へも一瞬に反応するなど、
美しく、非常に統制が取れているように見え、いつも驚き、感嘆して見ていた。
何故魚達は群れを作るのか?
外敵より大きな群れをつくり外敵から襲われにくくする
少数は犠牲になるが、犠牲の数は少なくすることが出来る
などの説明を聞くことがある。
食物連鎖の循環の下位にある小魚が群れを作ることで本当に外敵から自らを守ることが出来るのであろうか?
また、それ以外のメリットもあって群れを作るのであろうか?
サーディンランという言葉ご存知だろうか?
サーディンとはイワシの仲間のことで、ランは逃げると言うことで、
地球最大の魚群とも称されるサーディンランは、
海流の関係で南極水域から南アフリカ東海岸沿いを毎年、5から7月にかけて一斉に北上する現象である。
そのイワシの群れを狙って、サメ、オットセイ、イルカ、クジラ、カツオドリなどが集まり、壮大なスペクタクルで大自然のドラマが繰り広げられる。
その数、何十億匹。
この天文学的な数字のイワシの群れが大挙して海の中を逃げ惑う。
イワシが逃げる距離、数千km。
そして結局イワシは殆ど食べられてしまう。
ダイバーとなったからには一度は見てみたいと思うが、
何せ此処はアガラス海流という南アフリカの沿岸を流れ、
風成循環と熱塩循環の交差点でもあり、
直径数百kmに及ぶ世界最大の海洋の渦をつくるほどの、
世界でも有数の強い海流のある場所である。
おいそれと行けるものではない。
大きな群れを作れば作るほど大型の捕食者に狙われ餌食となってしまうのだが、それでも毎年これが繰り返されるのは一体何故なのだろうか?
こんな疑問を抱く中、最近“群れ”に関する二つの本を見つけ読んでみました。
ひとつは ピーター・ミラー著「群れのルール」
もうひとつは 長谷川英祐著「働かないアリに意義がある」
である。
「群れのルール」は
「進化によって磨きぬかれた賢い群れは、不確実さや複雑さ、変化といったものに驚くほど巧みに対処する。」と書き、
本書で取り上げられるアリやミツバチ、シロアリやムクドリは、個体それ自体としては、まったく知能を持たない。
だが、ある一定数が集まると驚異的な組織力を発し、我々にもできないすばらしい仕事をやってのける。
逆に、人間は、虫達より圧倒的に優れた知識を持っているにもかかわらず、個体の能力を生かし切れないことが多い。
「個体の能力は低いが、チームとしての成果は抜群」である昆虫や鳥たちに人間が学ぶところは多い、と著者は述べている。
魚に関しては余り多くを述べていないが、
「群れに属することの最大のメリットは、周囲の状況に関して自分一人では得られないような大量の情報を仲間達から得られることだ。
内容は餌のありかだったり、渡りのルートであったり、腹をすかせたバラクーダの接近であったりする。」
と述べている。
確かに、自然界において群れに従うか否かはたいてい生死にかかわる問題である。
しかし、群れることにより、より多くの外敵を呼び込み壊滅してしまうのもどうかと思うのだが。
「働かないアリに意義がある」
はアリやハチなどの集団社会を営む生物のなかで特に真社会性生物という、階層や役割分担など高度な社会性を持つハチ、アリ、シロアリなどの話です。
集団をつくり協力することは「集団をいかにうまく動かしていくか」という、単独で生活する生物には起こりえない問題を発生させる。
今回登場する虫たちは、全体の状況を判断して組織をうまく動かすように誰かが命令しているわけでもないが、常に変化する自然界で個々が適切な活動することで組織を見事に運営している。
アリの世界を例に取ると、働き者といわれていたアリであるが、実は7割は休んでいて、1割は一生働かないという。
だが、これがアリのコロニーをうまく動かす仕掛けだという。
アリには仕事に対する反応閾値に差があり、このため、
個性によってすぐに仕事にとりかかるアリ、なかなか腰の重い「怠け者」アリがいる。
すぐに仕事にとりかかるアリだけで済む場合はそれでいいが、他に新たな仕事が入ってきたときにこの「怠け者」アリが働くことになる。
これが自然界の色々な変化にうまく対応するための仕掛けだ。
この本は、ほかにも虫達の生態の研究成果を紹介しており、
私たち人間組織と置き換えてみると大変為になることが多くある。
魚の群れから少し離れたが今回の2冊は大変有意義なことが多く書かれており是非一読をお勧めします。
「群れのルール」 ピーター・ミラー著 東洋経済新報社刊 1900円
「働かないアリに意義がある」 長谷川英祐著
メディアファクトリー刊 740円