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ここ2年ぐらい経済関係の図書の購入が多くなってきている。
毎週1から2冊の経済週間雑誌に、毎月2,3冊程度の単行本を購入し、
読んでいるが、どうもしっくりこないことが多い(要はよく分からないのだ)。

私の専門は機械工学で、大学で機械工学を学び、就職して機械設計、設備エンジニアリング関係の業務に携わり、すでに40年以上経っている。
この間、機械工学関係の図書を自分で購入したのは、
この2年ぐらいで購入した経済関係の図書数よりたぶん少ないと思う。

それでも、まがりなりにも機械工学関係業務を生業として生活してきたが、
経済については図書をいくら読んでも理解できず、記憶にも残らない。

勿論、株での資産アップ(実態は本を読んでいても大きく損失を出している)に寄与しているわけでもない。

思うに、どうも具体的な”物“に対する現象を追求する工学系の思考パターンが染み着き、
抽象的なものを扱っている経済の思考を理解できなくなってしまっているのであろう。

とはいえ、今回、有名なノーベル賞を受賞した経済学者であるクルーグマン教授が、一般の人向けに、
難解な問題を分かりやすく説明することこそ真の経済学者の行うべきこという矜持により、

最近の金融危機を、意識的に平易な説明に努めて執筆したのが本著である、と聞き早速読ました。

本書は著者のノーベル賞受賞後初の書籍。
10年前に現在の状況を予測した「世界大不況への警告」に、その後の出来事と今後の展望を増補し改訂したものである。

本書の訳者あとがきの中に、金融危機の引き金を引いたのは、2008年9月15日の大手投資銀行、リーマン・ブラザーズの倒産といるのだろうが、
アメリカの金融当局ですら、リーマンが倒産してもその衝撃はそれほど大きくないと高を食っていた。

だが、その後の世界経済は坂道を転がり落ちるように不況に突入していった。

何故だろう。

劣悪なサブプライムローンのせいだと報じられてきたが、それが、何々ローンであろうと、たかがいくつもある住宅ローンの一つではないか。

世界的不動産バブルの崩壊だからという説明も聞く。

しかし、日本における土地・株バブルの崩壊は世界経済を大不況に陥らせることはなかった。

何故、今回のリーマン・ショックは違っているのか。
何故、リーマン・ショックから数ヶ月後に、東京の公園に「派遣村」が建つほど景気は悪化してしまったのか。

という疑問は誰でもが一度は胸中をよぎったであろう。

そしてそのような疑問を晴らし、この大不況の正体を明らかにするのが本書の目的だと書いている。

書の前半は1995年の中南米危機、日本のバブル崩壊後の長期不況、1997年のアジア経済危機を分析している。

経済学は、1920年代〜30年代の大不況から多くのことを学んだにもかかわらず、
実際の政治は誤った政策から、不況を防ぐことも乗り越えることもできなかったとしている。

後半は今回の世界同時不況について、ヘッジファンドの膨張、アメリカの緩めの金融政策、
規制の及ばない金融業態(影の銀行)等について分析をしている。

特に教授は規制緩和された金融機関が新たなるリスクをとったために危機が起こったのでなく、
当初から規制されたことがない金融機関がとったリスクによって引き起こされたものだとし、

政治家も金融当局も、大恐慌を発生させたような金融危機が再び生まれつつあることに気づくべきだった。

そして、それに対応するために、新しい機関に対して金融セーフネットと規制を施すべきだった。
と断言している。

そして最後に、「何をすべきか・・・非常事態への対応」として
教授は 世界が今必要としているのは、景気対策である。

まずは明白な当面の危険な状態をどうにかしなければならない。
そのためには世界の政策決定者は二つのことをする必要がある。

それは信用フローを回復すること。
そして消費を喚起することである。
と結んでいる。

教授の指摘どおりだ。
先日閉幕された二十カ国・地域(G20)首脳会議では10年末までに、
総額5兆ドルの財政出動に踏み切ることに合意した。
世界の為政者はやっとやるべきことを決めたのだ。
しかし重要なのはやはり金融の安定だ。
安定の努力が信任を得られないと財政出動の効果も上がらない。

やっと動き出したということか。
ところで、話は変わるがノーベル経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞)は、
アルフレッド・ノーベル自身が設置、遺贈したものではなく正確にはノーベル賞ではない。

受賞者のほとんどを欧米出身者が占め、その中でも特にアメリカとイギリスの出身者が多い。
2008年までの受賞者数62名のうち、欧米諸国の国籍を持たない受賞者は、1998年のアマルティア・セン(インド)が最初であり、唯一の受賞者となっている。

これって、前回話題にした「ワシントン・コンセンサス」の結果なのかな・・。