先月バハマへダイビングに行った折、そのおまけとしてのニューヨーク観光でメトロポリタン美術館を見学し、更におまけとして、帰国時羽田に夜遅く到着したので、東京に一泊して国立新美術館の「ビュールレ・コレクション 至上の印象派展」を見てきました。
 
今現在、バハマでのダイビング、ニューヨーク観光、メトロポリタン美術館、国立新美術館などホームページに掲載すべく精力的に写真を整理中ですが、なにしろ写真枚数が多くかつ多岐に渡っているのと生来の面倒くさがり屋のためか中々作業が進みません。
 

全然話が変わるが、昨年から米ハリウッドで始まったセクハラ告発運動”#MeToo"で続々と大物プロヂューサーや監督、俳優が訴えられ大騒ぎになっているが、この”#MeToo"運動が韓国に飛び火し、続々と与党の有力政治家が告発され、政界を直撃している。

日本でも昨年5月、ジャーナリスト・伊藤詩織さんが準強姦被害を告発し、同年12月にはブロガーで作家のはあちゅうさんが、上司によるセクハラ被害を告発して話題となった。
 
こんな”#Me Too"運動に誘発されたのか、美術界で古くて新しい問題の「芸術かワイセツか」で最近美術館が展示している作品がワイセツだから撤去せよという運動に巻き込まれ話題になっている。
 
一つは201712月米ニューヨークのメトロポリタン美術館に展示されている著名画家、バルテュスによる「夢見るテレーズ」がワイセツだから撤去せよという運動で12000筆の署名が集まったが、美術館側は表現の自由ということで撤去を拒否。

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                バルテュス作「夢見るテレーズ」 

もう一つが20182月英マンチェスター市立美術館でウォーターハウスの「ヒュラスとニンフたち」という絵が、突然撤去され、7日後には復活された。

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             ウオーターハウス作「ヒュラスとニンフたち」
 
ヒュラスはギリシャ神話に登場する絶世の美少年で、英雄ヘラクレスの愛人でした。
ヒュラスが森の奥へ水を汲みにいき、そこでニンフたちにとらわれて、彼女たちの棲む水面下の世界へ連れて行かれてしまうところをウオーターハウスが妖艶に描いている。
 
共に好きな画家の好きな作品なので何故!!と疑念を強く感じて、今回はこの問題に少し触れると共に、先日見てきたメトロポリタン美術館の作品と国立新美術館の「ビュールレ・コレクション 至上の印象派展」の作品を紹介したいと思います。

バハマのダイビングやニューヨーク観光については別途紹介することにします。
 
 
では初めに、バルテュスの「夢見るテレーズ」撤去要請問題ですが、
まずバルテュス(Balthus1908-2001年)はフランスの画家でピカソはバルテュスを「二十世紀最後の巨匠」と称えているほど著名な画家である。
日本とも大きな縁あり、1962年、パリでの日本美術展の選定のために訪れた東京で、当時20歳だった画家・出田節子と運命的な出会いをし、後に結婚している。

バルテュスは、少女たちを大胆な構図でエロティックで寓意豊かに描いて、日本でも人気が高く、20144月に東京都美術館で 「バルテュス展」が開催され問題の「夢見るテレーズ」も展示された。
 
メトロポリタン美術館が所蔵するこの「夢見るテレーズ」は近所の12,3歳のテレーズという少女をモデルにし、片膝を立てて、手を後ろで組んだ彼の独創的なポーズで描いている。
メトロポリタンにはこの少女をモデルにした「テレーズ」という作品もある、こちらのほうが人気があるようだ。


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さて、バルテュスの「夢見るテレーズ」撤去要請問題ですが、ニューヨークの女性が立膝をし下着をあらわにしたこの絵を見て破廉恥でショックを受けたということで、署名を集めるウェブサイトで美術館に対してこの作品の撤去を求めるという嘆願を始め、12,000筆にも達したことに始まります。

 
そもそも破廉恥なる定義も曖昧で、個人差があり、「夢見るテレーズ」を破廉恥とするなら、もっととんでもない名作がたくさんあり、ほとんどの裸の作品は撤去しなければいけなくなる。


  
       バルテュス作「テレーズ」 

撤去せよということは一種の検閲で数さえ集めればそれがまかり通るとなったら、言論や表現の自由が束縛されることになり「破廉恥」以上の大問題になる。
 
美術館側は表現の自由により撤去するつもりはないとコメントしている。
それはそうでしょうね。
メトロポリタンがハイわかりました。撤去します。と言ったらどうなるのだろうか?
チョット考えるだけでもその美術界に与える影響はそら恐ろしいことになりそうだ。
 

ではここで先日見てきたメトロポリタン美術館(通称MET)のちょっとした紹介を。
ニューヨークのセントラルパーク東側にあり、世界最大級の規模を誇る。
広範囲で質の高い、300万点を越すと所蔵品が特徴だ。
 
私は古代文化に興味があり、アッシリア、エジプト、ギリシャなどの美術品を中心に見ることにしていたが、何しろ広く膨大な数の作品が展示されているため、見落としも多く、時間の都合で中世や、近代の絵画などは殆ど駆け足で見て回るほどだった。
お目当ての作品を探すのも一苦労だ。
ギャラリー番号をはじめから調べておけばまだしも、広大な建物の中に入ってしまうと本当に迷路にはまった感じで見つからなかったものが沢山あった。
 
ありがたい事に、METのホームページから所蔵品の検索ができ、写真や細かい情報を観ることが出来るのだが、作者名や、作品名がわかれば検索も楽なのだが、それでも見られなかった絵画等一部この検索ページから探し当てて利用させて頂いた写真も少しあります。

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   左:MET 入り口 格調高い建物です  右:入り口入ってすぐの広いロビー

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              テンドゥール神殿 全体
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                テンドゥール神殿


テンドゥール神殿はアスワンハイ・ダムの建設で水没してしまうところをアメリカ政府がヌビアの遺跡保護を支援した感謝の印として贈られたものである。紀元前15年頃で壁の浮彫り彫刻にはファラオ・ローマ皇帝アウグストゥスがトート神などにぶどう酒を捧げている様子が描かれている。

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          ニムルド・アッシュールナツィルバル2世宮殿守護神


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私がMETで最も見たかったものと言っても過言でないニムルドの新アッシリア時代のアッシュールナツィルバル2世の宮殿遺跡である。
その中でも人頭有翼獅子像は支配者を悪から守るため獅子は翼と5本の脚を持ち超自然的な圧倒する形で守護の力を示している。
壁面にはアッシュールナツィルバル2世のレリーフがあ楔形文字で欠かれた王の称号と偉業が書かれている。
紀元前883年ー前859年頃とされるが、模様から楔形文字までくっきりと残っており本当に吃驚で、大きさといい精密な作りといい、当時の王の権勢の偉大さが伺われる。




 



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           ウゴリーノと息子たち (ジャン・バティステ・カルボー作)


ダンテの神曲でピサの反逆者ウゴリーノ伯爵とその息子と孫息子が投獄され、最後は餓死する物語に基づくものだが、息子たちが父親に自分の体を食べて生き残るようにとの申し出に抵抗するウゴリーノの苦悩を描いている。
 
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ゼウスとダナエーの息子のペルセウスが女神アテナの力を借りメドゥーサを退治する場面。威厳を感じさせるしなやかな体のカノーヴァのペルセウスは、新古典派の英雄の美の模範になった。
 













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この青年の像は、アッティカで彫られた大理石の人物像の中で最古の一つで、左足を前に踏み出し、腕を両脇にそえたポーズはエジプト美術に由来し、その後のギリシャの彫刻に広く取り入れられた。

 













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            水差しを持つ女 (フェルメール) 1662年頃


20161月 六本木 森アーツセンターギャラリーで日本で初公開されたフェルメールの成熟期の作品で現存する作品中でも1位、2位をあらそうほど完成度が高く、構図や作品全体のバランスなど最も優れた人物画であると言われている。


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              メーダ・プリマヴェージ (クリムト) 1912


娘メーダの肖像画で正面を向いて真っ直ぐ立つメーダの姿に、9歳の少女のはつらつさが汲み取れる。色使いがなんとも言えない。
 
 
さて次に、英国のマンチェスター市立美術館による絵画の一時撤去問題については、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(英国の画家でラファエル前派)の「ヒュラースとニンフたち」(1896)を126日に突然撤去してしまった事によるもので、何故ウォーターハウスの作品が、ヌードだから、少女のヌードだから、Me Too"運動への対応か・・・等、大きな論争になった。
 
結論を言うと、7日後には再展示されたが、どうも今回の撤去に関する湧き上がる「論争」や「騒動」を美術館の次の展示プログラムに反映するためのものだったようだ。
 

ひと騒がせな話だが、おかげで好きなウオーターハウスの作品を思い起こせたし、またマンチェスター市立美術館には、自然の光・大気・水を色彩で捉えたその独創的な表現で、光の魔術と称されるJ.M.W.ターナーの作品が多く所蔵されていることを知り一度行ってみたい美術館の一つにもなった。


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               ドーバー海峡 (ターナー作) 1827


さて最後に国立新美術館の「ビュールレ・コレクション 至上の印象派展」の見学内容についてさわりだけを書きます。
 
ドイツに生まれの実業家であるビュールレが一代で収集したコレクションで、今まではは、チューリヒにある邸宅の隣の別棟に飾られていたが、2020年にチューリヒ美術館に全コレクションが移管されることになっている。
 
ビュールレ・コレクションには、モネ、ゴッホ、セザンヌなどの傑作が数多く含まれ、本展の出品作品、約60点の半数は日本初公開で、なかでもモネの代表作の一つ、高さ2m×4mの大作「睡蓮の池、緑の反映」は、これまでスイス国外には一度も出たことがないものだ。

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          睡蓮の池、緑の反映 (クロード・モネ) 1920-26


最後の部屋にこの作品だけが展示されており、大きさにも圧倒されたが、じっと見ていると、植物の様々な色彩を映し出す穏やかな水面の岸辺に佇んでいる感じだ、
 
今回の展示作品のもう一つの目玉である「絵画史上最強の美少女」のキャッチコピーが付けられたルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」である。
裕福な銀行家の当時8歳であった娘イレーヌを描いたもので、イレーヌの栗色の豊かな髪やあどけない表情が、背景に描かれた深い緑の茂みによって引き立てられている。
この絵を見ていると一本の線の太さ形、そして色合いが僅かでも違ったらこの少女の美しは無くなってしまうのではないかと想うと画家の比類稀な才能が強く感じられる。

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         イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)ルノワール1880 

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            赤いチョッキの少年 (ポール・セザンヌ 1888-90年)


セザンヌの肖像画のなかでも、もっとも有名な作品で、肘をつき、物思いにふける少年を描いている。
構造と画面周辺の沈んだ色調に囲まれ、少年の顔と赤いチョッキ、右腕を包むシャツの白さの色使いが素晴らしい。
 
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                 國立新美術館と満開の桜

旅の出発時は寒に凍えながら空港を出たが、2週間後の帰国時は既に桜が満開で温かな春本番となっていて、時の移り変わりの速さに驚嘆すると共に、ダイビングの写真の整理を早くしなければど肝に命じる次第である。