いよいよギリシャの国民投票が明日に迫ってきた。
 
ギリシャ・のチプラス首相は、突然75日に国民投票を行い、ギリシャ国民が国際債権団の提案を受け入れるかどうか判断することにしてしまった。
要は難しい判断を国民に委ねてしまったのだ。
 
ギリシャがユーロ圏から離脱するかどうかを左右する国民投票で、ギリシャ国民がどのような決断を下すのかわからないが、”ヘラクレスの選択”のようにいずれの道を選んでもギリシャにとってはばらの道が待っているのであろう。
 
現在のギリシャのメディアによる予想は緊縮受入賛成と反対が各40%程度で全く拮抗しており、どのような結果になるかは全く予想がつかないようだ。
 
 
ギリシャ国民が下す自らの決断により、今後のギリシャはどのようになって行くのだろうか?
 
「ギリシャ国民投票めぐる3つのシナリオ」という記事が72日付けのウォール・ストリート・ジャーナル に記載されていた。
 
それによると、ギリシャは630日、国際通貨基金(IMF)史上、先進国では初めて融資を期限に返済できず、事実上のデフォルト(債務不履行)状態となった。
では次にどうなるのか?
 
アナリストやエコノミストが予想する3つのシナリオがあるという。
 
まず
1)国民投票で債権団の提案を受け入れ徐々に正常化
 

ギリシャは、欧州中央銀行(ECB)による同国銀行への融資増額が見送られたことにより、金融システムの崩壊を食い止めため、ギリシャ中央銀行は現在、国内銀行の休業と資本規制(預金引き出し制限)導入を導入をせざるを得なくなり、ギリシャ経済の首を更に絞めつけている。

緊縮案を受入れた場合でも、ギリシャの資本規制は延長される可能性が大きいが、新政権が樹立され、債権団との交渉が再開されるだろう。

 
ギリシャは、これまで以上に厳しい経済改革に同意せざるを得なくなるが、債務減免や緊急融資を受けることにり、IMFへの融資を返済し、長くつらい経済回復への道を歩み始めるだろう。

これが最も希望を持てるシナリオであるとしている。

 

2)国民投票で債権団の提案受入れるが、最終的にはユーロ圏から離脱

ギリシャ債権団の提案に応じても、ダメージが余りに大きく、ユーロ圏から離脱する可能性もある。

「国民投票で債権団の提案を受け入れたとしても、ギリシャと債権団が直ちに新財政緊縮策で合意できるかどうかは不透明で、ギリシャが財政緊縮策を実施することへの信頼度は低い」と外交評議会のロバート・カーン上級研究員は分析する。


同氏はまた、ギリシャが財政緊縮策を受け入れたとしても、ユーロ圏諸国の議会承認という長期に及ぶプロセスを経る必要があり、合意に対する政治的障害が大きくなるだろうとくぎを刺し、「その結果、ギリシャはユーロ不足からおそらくデフォルトに陥る恐れがあり、並行通貨が生まれる可能性がある」と予想する。


3)国民投票で債権団の提案拒否しユーロ圏から離脱

エコノミストの中には、ユーロ離脱はギリシャに利益をもたらすと論じる者もいるが、前出のカークガードによると、そうした主張は離脱の危険と困難さをかなり過小評価しているという。

同氏は「ギリシャの金融システムは崩壊し、同国はユーロ圏に関連した経済・金融機関への加盟による恩典を失うことになる」と警告する。
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        国別のユーロ導入状況  Wikpediaより
             ユーロ導入済みの欧州連合加盟国
             欧州為替相場メカニズム導入済みの欧州連合加盟国
             欧州為替相場メカニズム未導入の欧州連合加盟国

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日経新聞74日付け朝刊に
「ギリシャあす国民投票 ユーロ圏残留か孤立か」という記事がありその趣旨は
 
国民投票で「緊縮案」で賛成が上回れば、EUなどは新たな支援交渉に応じる方針で、EUとの交渉がうまくいけば、危機はひとまず遠ざかる。
しかし、チプラス首相は内閣総辞職の構えをみせており、8月にも総選挙に至るとの見方があるが、政局が混迷すれば支援交渉が遅れ、経済の混乱を深める懸念が大きく、国民の生活は益々厳しいものとなることが予想される。
 
国民投票で緊縮「反対」が上回ればギリシャ政府はEUに緊縮姿勢の緩和や、債務減免を含む金融支援を求めていくだろう。
ただ、EU側の首脳らは国民投票を「(ギリシャの旧自国通貨)ドラクマかユーロかの選択」と位置づける面もあり、ギリシャが反緊縮を貫けば、「ユーロ離脱」もやむを得ないとの声が広がり出すであろう。
 
支援交渉が決裂すればギリシャはユーロの枯渇に直面する。
銀行救済や年金支払いなどの資金を賄うため、事実上の自国通貨を発行せざるをえなくなり、ユーロ離脱の道を歩む可能性がある。
 
 
それでは、ギリシャがユーロ離脱して自国通貨を発行した時ギリシャはどんなことになるのだろうか
 
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                                日経新聞より

「MAG2 NEWS」630日版に
ギリシアが借金を踏み倒したら、どんな阿鼻叫喚が待っているのか?
という記事があった。
 
これによると
 
ユーロの中央銀行ECB(本部はドイツのフランクフルト)は、加盟18か国の銀行に対し、大きな損失や預金引き出しで流動性(現金)が不足したとき、緊急に貸し付ける制度(ELA)を敷いている。
 
ECBは、ギリシアの銀行に、不足する$150億ユーロ(2兆円)を貸しつけて来ました。今後この貸付をどうするのか?
デフォルトしても、ユーロは、このELA制度は、今のところは続ける予定というが。
 
しかし、EUとの交渉が決裂し、ELAの貸し出しも停止された場合、自国通貨の発行ということになるのだろう。
が、新ドラクマに戻れば、ユーロよりはるかに弱い通貨新ドラクマで払われる実質の賃金は、1/21/3に下がって、預金も年金も、ドラクマになって上がる物価に対し実質的には減って、益々貧困になってしまう。
 
また更に

政府債務
ギリシアの国債残高は、2015年現在3160億ユーロ(43兆円)である。

1ユーロ=1ドラクマで交換されると、3,160億ドラクマです。
ドラクマが1/3になると、3,160億ドラクマは、実質では14兆円に下がる。

ギリシアの政府債務は、事実上、1/3になったことになる。
 

対外債務
ギリシアの対外債務は、GDP(1,8292015)2.5倍あり、$4,572(55兆円)です。ECBIMF、海外、EFSC(欧州安定化機構)からから借りている。

この債務は多くがユーロ建てや米ドル建てである。
 

ユーロ建てやドル建ての債務を、ドラクマ建てにすることに、債権者団が応じるかどうか? 応じれば、その後の、確実なドラクマの1/3の低下により、債務の実質額は1/3(18兆円相当)に減額されることになる。
債権者団が、これに応じるかどうか、不明で、応じなければ、対外債務は減りません。

 

預金額
2008
年からの引き出しで大きく減った世帯や企業の預金は、2015年時点の大手銀行分で1,500億ユーロ(20兆円)残っています。
ユーロからドラクマに切り替わると、その後のドラクマの下落により、7兆円くらいの価値に減ります。

世帯も企業も2/3の預金(金融資産)を、失うことになります。
 
このようにユーロ離脱も困難ないばらの道です。
 
VAT(付加価値税)の引き上げ、年金のカット、公務員の削減という財政緊縮策を、ギリシア国民が受け入れるかどうか。
緊縮案受入は苦痛で耐えがたいが、されどもユーロ離脱はもっと困るというのがギリシャ国民の心情のようで国民の70%は、ユーロからは絶対に離脱すべきではないとのこと。
 
 
ギリシャの国民投票の結果を世界が注目しているが、ちょっと違った目で見ているのが中国とロシアだ。
 
71日付けの日本経済新聞 朝刊に
「中ロがギリシャ接近 安保問題に直結 米欧は警戒 」という記事が掲載されていた。
 
それによると
 
地中海の要衝であるギリシャの債務問題が危機的な状況に陥ったことで、地政学上の懸念も高まってきた。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるギリシャの混乱はこの地域の安全保障問題に直結する。
 
ウクライナ問題を巡り米欧への対抗姿勢を鮮明にするロシアのほか中国もギリシャに接近している。
ギリシャと欧州連合(EU)の亀裂がさらに深まれば、戦略バランスが崩れかねない。
としている。

 
さらに、オバマ大統領はメルケル・ドイツ首相と電話での協議で、ギリシャをユーロ圏にとどまらせることが「死活的に重要」との認識で一致した。
米独はギリシャが債務不履行(デフォルト)状態に陥ることを想定し、世界経済への打撃だけでなく、安全保障上の影響も懸念している。
 
ギリシャは米国と旧ソ連(現ロシア)を軸とする東西冷戦時代から戦略上の要衝として機能してきたが、ロシアが黒海に面するウクライナ領クリミア半島を武力で編入し、同国への軍事介入を強めるなか、近隣に位置するギリシャの重要度は増している。
 
ロシアのプーチン大統領はギリシャのチプラス首相を4月と6月、ロシアに招き、ウクライナ問題を巡る米欧の制裁などで不況に陥るロシアにはギリシャを支援する余力はないが、天然ガスをトルコ経由のパイプラインで欧州に運ぶ「トルコストリーム」構想への参加を働きかけ、米欧を揺さぶている。
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                       日経新聞より 

中国もギリシャを要衝と位置づけ、中国国有の海運最大手、中国遠洋運輸(コスコ)はギリシャの最大港湾、ピレウス港のコンテナ埠頭の運営権を握り、港自体の買収を検討中。
中国が掲げる、同国と欧州を結ぶ陸と海の現代版シルクロード構想はギリシャや周辺を含む。
中国の李克強首相は29日、ブリュッセルで開いたEUとの首脳会議で「ギリシャとユーロ圏が今回の危機を乗り切るに当たり、中国は建設的な役割を果たすことを望む」と語った。
が、ギリシャ経済が窮地に陥れば、豊富な資金を背景に影響力を強める用意があると示唆した格好だ。
 
ギリシャのユーロ圏離脱をひそかに願っているのは中国であるように思える。
ドラクマ通貨に戻れば、ギリシャで狙っている戦略的物件を安く買えるからだ。
しかも、ギリシャ国内の混乱の中で「白馬の騎士」役を演じることができるからだ。
 
 
虎視眈々と領土拡大を目論む中国とロシア。
ギリシャはユーロ圏の総GDPの2%ほどを占める小国だから、ギリシャの動向は世界的な大きな金融破綻をもたらす心配はないという人もいるかも知れないが、しかし、このギリシャ問題はギリシャ一国に止まることなく、EUそのもののあり方、世界の安全保障問題にも直結しているのだ。
 
明日のギリシャ国民投票が注目される所以であるが、この問題は明日の投票結果で終わりということでなく、どのような投票結果であろうと、ギリシャ国民にとっても、世界の国々にとっても、経済や安全保障の安定のため、真摯で粘り強い交渉が開始されるということだ。
 
世界の人々にとっていい結果が出ることを祈るばかりだ。