先日(1019日)、2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の承認案が19日午前、参院本会議で審議入りしたという記事が新聞に掲載された。
 
何故、参院本会議なのかというと、衆院では環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案を優先審議しており、パリ協定はまず参院で先議し批准を急ぐためという。
 
この「パリ協定」というのは昨年12月にパリで開いたCOP21で、20年以降の国際的な地球温暖化対策の枠組みで先進国に加え、中国やインドなど世界196カ国の国・地域がすべて、温室効果ガス削減を約束するのは初めての画期的なものである。
 
内容は、世界全体で産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑え、さらに1.5度に収める努力をするという目標を定めたもので、各国は温暖化ガスの排出削減目標を自主的に設けて、5年ごとに見直すというものである。
目標を達成したかどうかを検証する仕組みも盛り込んだが、目標達成は義務ではなく、達成できなかった場合の罰則はない。

イメージ 1
                    2015年12月パリに於けるCOP21の会議の様子(インターネットより)
イメージ 2
                各国の駆け引きが色々主張された(インターネットより)

この協定の発効には55カ国以上の批准と、批准国の温暖化ガス排出量が世界の55%に達する必要があったが、
105日、国連は「パリ協定」の発効に関し、同日時点で74カ国・地域が締結し、排出量は5687%に達し発効の条件を満たしたので、この日から30日後の114日に正式に発効すると発表した。
 
協定が発効すれば、第22回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)の期間中(当初から11月7~18日にモロッコのマラケシュで開催することは決定していた)に、パリ協定に基づく温暖化対策の具体化を話し合う第1回締約国会議(CMA1)が開催される。
 
締約国会議の初会合に正式参加するには、1019日までに国会承認する必要があったのだが日本はとても間に合わない。
 

この会議で温暖化対策の大枠を定めたパリ協定の具体的なルールづくりが始まるが、批准が遅れ締約国ではない日本は、大切な意思決定に参加できないことになる。

欧米先進国だけではなく、中国、インドなどの大量排出国など世界の主要国70カ国以上が締約国になっている中で、日本の出遅れはいかにも日本が温暖化防止に消極的な国であるかのような印象を与えてしまう。

 
第一回締約国会議へのオブザーバー参加は可能だが、発言権はなく、日本抜きで議論が進む可能性もあが、日本としてはCOP22開催前までにはなんとか批准し、日本が温暖化対策に取り組む姿勢をアピールしたいと参院で先審議入りする苦肉の策なのだ。
 
 
なぜこんな不名誉な事態を招いてしまったのだろうか?。
 
採択から1年足らずの異例な早さでの発効であったが(1997年の京都議定書では効力発生まで8年を要している)、日本は完全に世界の流れを読み切れず手続きが遅れたのと、113月の東日本大震災、それに伴う福島原発事故以降、原発という大きな温暖化対策手段をなくしてしてしまって、温暖化対策に取り組む熱意、姿勢が低下してしまったことことであると言われる。
 


当初、「パリ協定」の発効は18年ごろとみられていたが、中国・杭州でのG20開催の前日、93日に米中が同時批准したことで完全に風向きが変わってしまった。

 
米国は、17年1月に任期が切れるオバマ大統領にとって地球規模での環境問題である温暖化対策は、レガシーづくりとして最も優先度の高い政策課題だった。
そのため、米国は交渉時、温暖化ガスの排出削減規模を「達成義務」ではなく「自主目標」にとどめ、議会の承認なしに協定に参加する道を開き、さらに、「反パリ協定」を公言する共和党のドナルド・トランプ候補が大統領になった場合への対策として、協定の発効後、離脱を通告できるのは3年後で、実際の離脱はその1年後となるため、年内に発効すれば4年後には再び大統領選を迎えるため、トランプ氏が独断で離脱するリスクを封じ込められることより、米国はどうしても年内発効が最優先事項だったのだ。
 
そんな米国の事情を見て動いたのが中国だ。
中国では、「環境問題」は米国と協調できる数少ない外交カードであり、「30年ごろに排出を頭打ちに」という、もともとは失うものがないほどの容易な内容あるためと中国が初めて議長国を務る杭州で開幕する20カ国・地域(G20)首脳会議の前日に米中「同時批准」を発表することにより、大国どおしの協調をアピールしたのだ。
 
中国の習主席の狙いは勿論環境問題でなく、南シナ海などの海洋問題が首脳会議にて争点にならないようにし、この会議を成功裏に納め大国指導者として歴史に名を刻みたい強い思い入れがあったからだ。
いざとなったら中国には最後には”こんな協定は紙くずだ”と強弁してしまう強力な切り札がありパリ協定の約束なんか意に介してない。
 
米中の早期批准に焦ったのがEUだ。
当初、EUの批准は17年になるとみられていたが、欧州は京都議定書や排出量取引の導入など温暖化対策を主導してきた自負があり、「温暖化対策で欧州が後れを取るわけにはいかない」と年内批准に動いた。
このため時間がかかる全加盟国の手続きを待たず、EUとしての批准を先行させる異例の手続きで1036日の欧州議会で承認を得た上で国連に批准手続きをした。
 
既に国内手続きを済ませた仏独など6カ国も同時に報告され、これらが批准した国の排出分として加算された(EUは世界の排出量の12%を占めるが、報告された6カ国分で4.39%になる)。
これで、インド、メキシコ、カナダなど批准とあわせ、EUの批准が発効の決め手となり面目を保った。

イメージ 3
                      (日経新聞より)
 
世界の流れを完全に見誤ってしまった日本はどうする。
少なくとも、まず、モロッコでのCOP22が始まる117日前には批准をし、世界環境改善に注力する国であることをアッピールすることであるが、批准すればその目標達成へは苦難の道のりだ。
本当は政府が批准を渋っていた原因は協定を承認しても、その目標の達成は現実的には殆ど不可能に近いからだ。
 
まず、COP21の各国の達成目標を見てみると(JCCCAのホームページより)
下図のように記載されている。
イメージ 10
                     (JCCA HPより)

今回のパリ協定には、以下のような特徴がある。
 
世界全体で産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑え、さらに1.5度に収める努力をする目標を定めた。
各国は温暖化ガスの排出削減目標を自主的に設けて、5年ごとに見直す。
目標を達成したかどうかを検証する仕組みも盛り込んだが、目標達成は義務ではなく、達成できなかった場合の罰則はないなど。
イメージ 4
                                 (日経新聞より)
イメージ 11
                            
さて、COP21の大きな目玉である、産業革命時点から温度上昇を2度未満にするためにエネルギーの低炭素化が本格的に論議されている。
 
そのためには2040年には石炭は43%減、ガスは21%減、再生可能エネルギーは29%増とする予想を立てている。

イメージ 5
         産業革命以降の温度上昇を2度C未満にする対策(日経新聞より)

エネルギーの低炭素化により強い逆風を受けるのが石炭だ。
 
米国やEUでは天然ガスへの転換が進んでいるが、エネルギー、特に電力需要の大幅増加が見込まれる中国やインド、東南アジア諸国連合などでは状況が明らかに異なる。
これらの国々でも再生可能エネルギー利用をすすめるがそれだけでは足りない。
価格も安く、供給が安定している石炭は途上国では欠かせないと主張している。
こんな中で、石炭業界が着目するのは二酸化炭素地下貯留だ。
問題はCO2の抑制であり、石炭自体ではないというわけだ。
 
しかし、欧州の科学者らによる非政府組織(NGO)「クライメート・アクション・トラッカー」によると、世界で建設・計画中の計2440基(中国1171基、インド446期、インドネシア119基・・日本45基・・多くはアジアだ)の石炭発電所があり、もし、いずれも稼働すると、CO2排出量が2030年には年120億トンに達し、2度未満の目標を達成するための排出量を4倍上回るという。
目標は理解できるが現実はそうは行かないということ
イメージ 6
                (日経新聞より)

追い風を受けたのが再生可能エネルギーで、中国やインドを含め途上国も含めて積極的だ。
しかし、気象条件に左右されるため不安定だし、発電量が増えれば、送電網強化や大型蓄電池などのインフラ整備が必要になり高コストだ。
だが、環境非政府組織(NGO)グリーンピースは、二酸化炭素地下貯留の商業化に懸念ありと、これに反対し、かつ石炭に頼らず50年ごろには100%再生可能エネルギーが可能と主張する。
 
色々意見があるが、原子力を含め、いずれのエネルギーも単独では、安定供給、経済性、CO23つの課題への完璧な回答とはならないということだ。
COP21で議論された実質的に排出量をゼロにする「ネットゼロエミッション」への移行は重い課題だ。(経産業新聞2016/1/18付け より)
 
 
では日本の状況はと言うと、政府は2030年までに温室効果ガスを2013年比で26%削減するという目標を決めた。
ここではエネルギーおけるCO22030年までに25%減らすことになっているが、その前提として想定されるエネルギーミックスは、次のようなものだ。
 

・再生可能エネルギー:2224%程度
・原子力:2022%程度
・石炭:26%程度
LNG27%程度
・石油:3%程度

 
これが実現できれば、電力に由来するCO2の排出量は34%も減り、エネルギー全体で25%減らせるというが、問題は実現可能かということだ。
イメージ 9
             電源構成の推移(インターネットより)

再生可能エネルギーは11年の震災前10年間の平均で電力の11%だが、そのうち9%は水力で、これはほとんど増えないと予想されているので、残りの1315%を太陽光などの新エネルギーでまかなうことになる。
 
これはやろうと思えば、できないことはない。固定価格買取制度で高価格を保証すれば、巨額の設備投資が行なわれるだろう。
計算では、太陽光でCO21%減らすには、約1兆円かかると言われる。
つまりこの計画通り太陽光を増やすと、13兆円以上の国民負担になるのだ。
これは現在の電力会社のコストをほぼ倍増させるのである。
 
その上11年の震災以降の原発問題がある。
10月現在、商業用原子力発電所57基(国内に設置された稼動歴のある原発)中、稼働中の原発は3基(九電川内原発1号機2号機・四国電伊方原発3号機)だ。
 
原子力規制委員会の審査合格し稼働開始しても司法の判断で163月に運転中止となった高浜原発3,4号基や審査中の新潟の柏崎刈羽原発の再稼働議論は反対とする知事が当選するなど流動的だ。
 
目標達成への想定されるエネルギーミックスの原子力が2030年までに2220%にするためには30基程度の原発が稼働する必要がある。
原子力規制委員会の安全審査は大幅に遅れており、このペースでやると、あと15年で15基の審査を終えるのが精一杯だろう(稼働できるかどうかは別だが)。
それだと原子力の構成比は、10%(15基稼働で今は3基稼働)ぐらいにしかならない。
この穴を埋めるのには、更なる再生可能エネルギーは国民の負担的(太陽光の場合現在の電気代が4倍近くになる)に無理と思える。
おそらく単価の安い石炭火力(原子力とほぼ同じ)になるのだろう。
その場合は2030年には石炭の構成比が30%以上に増えるおそれが強い。
 
こうなると、目標達成どころか現状維持がやっとか、そして石炭による環境悪化問題が顕著化して来ることになる。
イメージ 7
             エネルギー別発電コストの比較(インターネットより)
 
カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究によると2013年に大気汚染が原因による疾病で死亡した人の数は世界で550万人に達したという。
そのうち半数以上がインドと中国に集中しており、インドの死者は約140万人で中国は約160万人だった。
 
大気汚染のうち中国では石炭の燃焼が屋外の大気汚染の最大の要因であることが研究で分かった。
2013年にはこれが原因で推定366000人が死亡し、石炭の燃焼について対策が講じられない場合、2030年までに130万人が早死にすると科学者は試算している。
 
日本でも年間25000人程の人が大気汚染が原因で早死しているという。
 
イメージ 8
             WHOによる大気汚染による死者(インターネットより)

ならばどうする。
温暖化防止対策も、大気汚染防止もしし、さらにコストも安く、リスクを最小限する方法は何なのか。
完全なものは無いのだろうから、ただ感情的に”○○反対”というのでなく、政府、政治家、マスコミは一方的に一方向に煽るようなことは慎み、利点も欠点も明確にし、我々国民が適切な判断を出来るような情報を提供すべきだ。
 
既存の57基もある原子力発電所も最新の基準で安全(勿論リスクはある事を明確にして)であると認証されたら、有力な選択肢の一つであると思う。
じっくりと皆で意見を交換して行くべきだ。