先日(65,6日)一泊止まりで東京へ美術館巡りに行って来ました。


611日には終了してしまう上野の国立科学博物館「大英自然史博物館展」をどうしても見たいとずーと気にかけていたが、仲々チャンスがなくやっと雑業の合間を縫って実現したのだ。

 

どうせ行くなら、やはり興味あった東京都美術館「ブリューゲル「バブルの塔」展」も行こうと上野に宿を取り一泊二日の美術館巡りツアーとなったのだが・・・。


 「大英自然史博物館展」は通常月曜日は休館日だが、611日に終了するということで6月からは毎日開館しており、5日の月曜日は狙い目で、午後1時頃入館したのだがガラガラで閉館時間近くまでゆっくり鑑賞できた。


 

「ブリューゲル「バブルの塔」展」の方はそうはうまく行かず、朝9時半の開館に、9時頃行ったのだが既に長い行列が出来ており、館内は展示品の壁沿いに長い行列となり、列から出入りが出来ず、自然と意図としない間に出口に来てしまい、12時頃には退館させられてしまったという感じだった。


 


しかし、目玉である「バブルの塔」は広い専用なコーナーを設け、壁一面に拡大図を掲げ多くの人が集まっても見やすいようにとの工夫はされていた。


 


さて、帰りは夕刻のフライトなので空いた時間に森アーツセンターギャラリーの「大エルミタージュ美術館展」に行くことにした。


10月に神戸でも開催予定なので、混んでいても神戸に来た時の下調べと気楽な気持ちで行くことにした。


ということで、一泊二日の東京美術館、3館を巡る、駆け足の強行軍であったが、これらの中心的な展示品やチョット気になった物などを紹介してみたいと思う。


 

まず、


国立科学博物館の「大英自然史博物館展」


  ・入館料 1,600円 音声案内 520円 展示図録 2,000


この博物館展のパンフレットを拾い読みすると


8000万点を誇る大英自然史博物館の世界最大級のコレクションをから厳選された至宝を一挙公開!」とある。


又、本展では「始祖鳥」を初めに、自然史に名を残す同館の至宝約370点を選りすぐり一堂に展示するもので、ロンドンで常設展示されるものはわずか17点。


本展は同館初の海外巡回展かつその最初の会場に選ばれたのが、ここ日本の国立科学博物館で、出品される展示物は動植物、化石、鉱物など多岐にわたり、すべて日本初公開だという。


要するに大変貴重なもので、ロンドンに行っても見れないものが殆どだから「見なきゃ損」ということなのだ。

イメージ 1


 

何と言っても今回の目玉は「始祖鳥」だ。


「始祖鳥」とは、恐竜と鳥類の特徴を併せ持ち、両者が進化的につながっていた事を示す、最古の鳥類の化石と言われている者だ。


鳥類の羽毛(最近は羽毛のある恐竜の化石が派遣されている)があり、嘴には歯があり、鉤爪がある。


又、頭部を3次元で復元して、始祖鳥が飛行に必要な視力や平衡感覚、運動神経を持っていたと推定されている。


 

今回のものは「ロンドン標本」と言われるもので、ドイツのジュラ紀後期(約15000万年前)の地層から1861年に見つかったものだ。


この化石が発見された時期は、1859年にチャールズ・ダーウィンが「種の起源」を出版した(ダーウィンの直筆原稿も今回展示されている)しており、当時、宗教界を巻き込んで「進化」という考え方をめぐり、大激論が交わされていたときであり、この化石には爬虫類と鳥類の両方の特徴があり、まさに、“進化のミッシングリンク”を埋める存在と見られたのだ。


 さて、これほどまでに重要な始祖鳥化石が発見地のドイツでなくイギリスの博物館に所蔵されているのだろうか?

イメージ 2


イメージ 3
何故か、現在大英博物館の至宝として展示されてる、エルギン・マーブルを思い起こす。


エルギン・マーブルは古代ギリシア・アテナイのパルテノン神殿を飾った諸彫刻で19世紀初めにイギリスの外交官がパルテノン神殿から強引に削り取ってイギリスに持ち帰って、後に大英博物館に寄贈されたもので、1970年代、ギリシャの返還要請返還要求を強めた(その先頭に立った文化・科学相のメリナ・メルクーリは、映画女優としても有名である)が、しかしながら、両国の見解はすれ違ったままということで現在に至っている。


 

しかし、今回のケースは当時ドイツの研究者はこの始祖鳥の価値を正確に把握できなく、この記念すべき骨格標本はロンドンに持ちこまれたということらしい。


その後ドイツの地層より十数件の始祖鳥の化石が発見されているが、その価値に直ぐ気づき、多くはドイツ国内の博物館が所蔵されている。


その中で、1876年発見された「ドイツ標本」と言われるものは 標本の状態が良好なで、頭部もしっかりと残っているため、この標本のレプリカや写真はさまざまな場所で展示されている。


 にも入り口の奥にひっそりと展示されいた頭足類の化石。


このジュラ紀の”イカ”と思われる化石は軟体部まで残っており、触手やそこに並ぶかぎ状の突起のような(現在のイカは吸盤を持つ)繊細な構造まで残っている学術的に重要な化石と言われている。

 

更にピルトダウン人の頭骨復元まで展示されていた。


この化石は"ピルトダウン人事件という最悪の詐欺事件を起こした化石である。


この事件は、チャールズ・ドーソンという人が1912年にイングランド南部サセックスで"発見"したという人類の骨は50万年前のもので、既に見つかっていた人類の祖先とは違い、"脳が大き"く、ヒトとサルをつなぐミッシングリンクが見つかったのだと、学会は大騒ぎになった。


しかし、40年以上経過して、色々測定技術が進歩して再測定すると、頭部は現代人、顎部はオラウータンのものを組み合わせた全くの捏造ものと判明したのだ。


もう一つ、呪われたアメニストという大きな宝石が展示されていた。


所有者がこの宝石は”呪われている”と信じ、自らを守るために厳重に封印して運河に投棄したが、結局自分のところに戻ってきてしまい、大英自然史博物館に寄贈されたものである。


博物館に所蔵され”呪い”が解かれたかどうかは分からないが、仲々面白いものまで所蔵されているものだ。


イメージ 4
 


紹介したいものは山ほどあるが、字数の関係で次に行った美術館の紹介をします。


 

東京都美術館の「ブリューゲル「バベルの塔」展」


  ・入館料 1,000円 音声案内 520円 展示図録 2,500


東京都美術館は65歳以上はシニア料金で通常1,600円が1,000円に、それも東京在住者以外にも・・・さすが東京都 財政豊かで太っ腹だ。


 副題に「16世紀ネーデルランドの至宝・ボスを超えて」とあり、ブリューゲルのみならず、彼が手本とした先駆者ヒエロニムス・ボスの油彩2点、そして彼らが生きた時代、16世紀ネーデルラントの絵画、版画、彫刻を合わせて90もの作品で紹介するとあるが、やはり中心は目玉である「バベルの塔」においている。


今回混んでいて詳細に見ることが出来なかったが、本展は7/1810/15まで大阪の国立国際美術館で展示されるようのなので詳細はそこで見ることにし、ここでは目玉の「バベルの塔」を中心に触れてみる。

イメージ 5


 
イメージ 6



旧約聖書「創世記」に神は自分の姿に似せて人間を造ったが、誘惑に負けたアダムとイブは楽園を追放され、地上に降りた後数を増やし、騒々しく、堕落し、神を敬うことしなかったので、神は怒り、「ノアの洪水」や火の雨を降らしソドムの町を焼き尽くしたが、人間は懲りず天にも届くバベルの塔を建設し始めたため、神の怒りをかい、建設を止めさせるため民族毎に言葉を分けてしまたという。


バベルの塔は魅力的な主題で多くの画家たちが描いている。

イメージ 7


 だが、ブリューゲルの「バベルの塔」に敵うものはない。


実はブリューゲルは生涯3枚の「バベルの塔」を描いている。


・一枚目:イタリア時代に描かれたもので現存しない
・二枚目:1563年ごろの作品でウィーン美術史美術館所蔵 (大バベルと呼ばれる)
・三枚目:1568年ごろの作品でボイマンス美術館所蔵 (小バベルと呼ばれる)


今回の展示は三枚目の小バベルと呼ばれるもので、ウィーンのものに比べてサイズが小さい(大バベル:114cm×155cm 小バベル:59.9cm×74.6cm)。

イメージ 8


二つの「バベルの塔」の違いは大バベルは大きな画面に雄大、大胆に描いているが小バベルは画面は小さいがそれを感じさせない壮大さと驚異の緻密さで細部まで描いている。


確かに今回の「バベルの塔」は画面上に描かれた人々の数は1,400人と言われ、細密なだけでなく、圧倒的なボリュームと迫真性を備えている。

 

頂上部のあたらしい、レンガは赤くするとか、窓の形を変え建築様式の変化表現、塔内部教会があり多くの人が集まっていたり、漆喰を運搬する人達は全身が真っ白に描き、何段にも資材を揚げる人力クレーンの構造を克明に描いているなど、又海と港には彼が詳しい色々な船を描き、塔周りは当時のネーデルラントの農村風景が詳しく描かれている。


上げたらキリがないほど小さな画面に建設の様子などが克明に描かれている。

イメージ 9


ブリューゲルの油彩画は世界的にも非常に貴重で真作は40点あまりしか残っておらず、板の上に500年前に描かれた油彩画はデリケートな保存を要するため海外の展示が最も難しい巨匠の一人と言われている。

 

おまけでこんな絵がありました。


イメージ 10


 {バベルの塔」ばかりになってしまったが、奇想天外な怪物たちが跋扈する世界を描いた奇才、ヒエロニムス・ボスの作品とその影響を受けたブリューゲルの版画記載しておきます。

イメージ 11


 
さて、次は「大エルミタージュ美術館展」だが、103日から神戸の兵庫県立美術館で展示されるので今回訪問する予定では無かったが、時間が余り、急遽行ったため閲覧時間も少なく、混んでいたためじっくり見ることもできず、今回は簡単に紹介します。


森アーツセンターギャラリーの「大エルミタージュ美術館展」

    (オールドマスター西洋絵画の巨匠たち)

  ・入館料 1,600円 音声案内 550円 展示品図録 2,500


エルミタージュ美術館 云わずと知れたかっての帝政ロシアの首都、サンクトペテルブルクにカテリーナ2世がベルリンの豪商から買い上げた225点の絵画を王宮内に飾ったのが始まりで、今では世界中の絵画や彫刻、文化遺産も集めて、およそ300万点。


展示室は400以上もある世界第三美術館の一つである。

イメージ 12


 今回は、17,000にも及ぶ絵画コレクションの中で、16世紀ルネッサンスから17,18世紀のバロック・ロココのオールドマスター、巨匠たちの名画85点が展示されている。


まず入り口を入ると、ドーンと220cmX151cmもの大作、エカテリーナ2世の肖像が出迎える。


イメージ 13
 


印象的だった作品を列挙すると

イメージ 14


接吻を盗まれた女性は抵抗らしい抵抗もせず、むしろ青年の方に身を寄せている。


彼女が気にしているのは、視線の先(画面右)の隣室にいる人々に気づかれないかということ。衣装の質感と女性の表情が素晴らしい。


私が最も気になったのは、大きな大作がズラッと並び混み合う中、38cm31cmと小さな絵のためか、皆素通りしてここだけがポコッと空いててじっくり見てしまった。

イメージ 15


 少女はなにを見つめているのだろうか、一途さと可憐さと清純さを見事に表現している。


又作者はすみれ色という色に少女の想いをかなり込めて描いたのではないだろうか?


古代ギリシャ人はスミレを愛し、蘇る大地のシンボルにしたように、ヨーロッパでは春の使者と扱われ、スミレにはつつましい可憐な少女のイメージを持つという。


まさに作者は可憐なスミレのイメージをこの少女の表情に写し込んだような気がする。


その他説明を省くが重厚な絵画が一杯だ。

イメージ 16


 
おまけで

イメージ 17


一泊二日で三つの美術館等を巡るハードスケジュールであったが、久しぶりにチョット知的感覚を刺激する事ができ何よりであった。10月には神戸の「大エルミタージュ美術館展」に行きもっとゆっくり詳しく見てこよう。


ダイビングの頻度を少し下げ、世界の美術館巡りをしてみたいが、一番の候補がエルミタージュ美術館だ。


早くあの「ヨルダン階段」を上って見たいものだ。