厳しい寒波の中、2月初めに行ったチュークでのダイビング写真の整理もそっちのけで笹本稜平氏の小説に没入していた。
笹本氏の小説に嵌まった切っ掛けは 昨年末、書店の棚の中の分厚い「遺産」を何気なく手に取ったことである。
アクション、冒険小説が好きな私だが、ほとんどが海外の作家のものが主体で、笹本氏の小説は初めてであった。
だが、この「遺産」は、私の2014年1月27日付けのブログでも紹介したように、海洋冒険ロマン小説だが、それだけで終わっていなかった。
日本から2000km、太平洋の真ん中に眠るマニラ・ガレオン船とこの船と運命を共にした大航海時代に海に生きた一日本人とその子孫である若い考古学者とのの魂の邂逅を描き、
さらに水中考古学の取り巻く世界や、地震に火山、新島誕生に国家間の権益争いにも触れながら息もつかさぬストーリーの展開に感嘆させられ、一遍に好きな作家の一人となってしまったのだ。
氏は、調べてみると、海洋と山岳を舞台にした冒険小説と警察のミステリー物を多く執筆しており、「遺産」に引き続きインターネットで購入し、読んだ本が
「その峰の彼方」2014年1月発刊 文芸春秋刊 1900円
「太平洋の薔薇 上下」2006年3月発刊 光文社刊 各667円
「時の渚」 2004年4月発刊 文芸春秋刊 619円
である。
「太平洋の薔薇」は第6回大藪晴彦賞受賞作品で
「時の渚」は第18回サントリーミステリー大賞・読者賞のダブル受賞作品である。
各本の内容を紹介すると
「その峰の彼方」は
孤高のクライマー・津田悟は北米大陸最高峰・マッキンリーに零下70度にもなるという厳冬の最難関といわれる未踏ルートに単身挑み、消息を絶てしまった。
津田はアラスカで山岳ガイドとし高く評価されて、地域、仲間たちからの人望も高く、愛する妻は子供を身ごもり、彼が企画したアラスカを舞台にした大きなビジネスも花開こうとしていた、まさに順風満帆のこの時期に、なぜ今、彼はこのような無謀なチャレンジを行ったのか。
親友・吉沢をはじめとして結成された捜索隊は、やがて津田の脱ぎ捨てられた上着などの驚愕の生の痕跡に接する。
彼にいったい何が起きているのか? 無事生還できるのか?
捜索隊や周囲の人たちの言葉や行動を通じて、彼らが如何に津田を愛し、信頼していたか、そして彼の「生きること」への真摯な気持ちや行動が少しずつ明らかになっていく。
500ページにも達する長編だが、山岳という厳しい舞台を背景に人間の生き様を考えせられる素晴らしい小説だ。
是非読んで頂きたい。
「太平洋の薔薇」
は2003年の発刊で第6回大藪晴彦賞受賞作品である。
内容は
老朽貨物船「パシフィック・ローズ」の伝説の名船長・柚木静一郎は横浜への最後の航海で海賊に襲われる。
海賊の目的は、積荷や身代金ではなく嵐の海を航海できる技倆を持った船乗りを必要としたのだ。
だがその裏では、悪名高いテロリストが糸を引いていた。
乗組員の命を楯に取られ、柚木は無謀とも言える嵐の海への航海に挑んでいく。
同じ頃、ロシアでは100トンにも及ぶ、史上最悪の生物兵器が盗み出されていた―。
柚木を救おうと海の仲間たちが立ち上がる。
海上保安監でIMB(國際海事局)の海賊情報センターに出向中の柚木の娘・夏海は公私混同をいましめつつも父を救おうと情報収集に奔走する。
彼女の同僚や命令に違反してでも柚木を救おうとする海上保安監たち、海の仲間たちの団結力と果敢な勇気、そして熱き思ひに胸が打たれる。
30ページほどの最終章は感動した。
日本の海上保安庁の巡視船、アメリカの駆逐艦、ロシアの原子力潛水艦の乗り乗組員の登舷例のセレモニー、ロシア原潜艦長、米国大統領の柚木の勇気と友愛への感謝のコメント。本当に感動し、ほとんど涙を流していた。
海の仲間たちの勇気、絆に本当に感動する小説だ。
「時の渚」
笹本稜平氏警察物もよく書かれているのだが、2001年5月に発刊され、第18回サントリーミステリー大賞・読者賞のダブル受賞作品で氏のデビュー作ということで読んでみた。
内容は
元刑事で、今はしがない私立探偵である茜沢圭は、末期癌に冒された老人から、35年前に生き別れになった息子を捜し出すよう依頼される。
茜沢は息子の消息を辿る中で、自分の家族を奪った轢き逃げ事件との関連を見出す…。
やがて明らかになる「血」の因縁と意外な結末…。
そんな偶然が…といくつも続くのだが、やはりそのテンポの良さは本書以降の国際謀略やらサスペンス物やらに受け継がれているようだ。
犯罪を起こす人達の人間性の形成は血縁関係より先天的なものとして備わっているのか、あるいは生まれ落ちた環境などの後天的なものに影響を受けるものなのか?
作者はこの重いテーマをデビュー作から取り扱い、警察物のスピーディーな展開にのせながら「人間愛」に行きつくと述べている。
短時間に笹本稜平氏の長編小説を読み漁ったが、まだまだ読みたい著書がたくさんある。
楽しみだ。