
本年初めからパラオへダイビングに行った時話題になったのが「南十字星」であった。
折角南の島に来ているのだから「南十字星」をじっくりと見てみようということになった。
パラオ最後の日、早朝ダイビングで4時に起き、5時には波止場に着いて見上げた南の真っ黒な空には満天の輝く星でそれは見事なものだった。
しかし、余りハッキリせずガイドに教えて貰ったが、「ニセ十字」と間違え易いからと言いながら指差す方向を探すと薄っすらとやっと「南十字星」を見つけることが出来た。
さて、初めて知った「ニセ十字」は、南十字星の右下に位置している。
南十字星が個々の明るさがバラバラであるのに対して、ニセ十字は全て二等星と明るさが揃っており、大きさ自体も南十字星より大きいこともあって、初見の人はこちらを南十字星と勘違いすることが多くこの名が付いているという。
久しぶりに南の空でゆっくりと夜空を眺めながら悠久の世界に浸っていたら、年末日経新聞に掲載された書評「ベテルギウスの超新星爆発:宇宙の運命に思い馳せる」を思い出し、帰国したらすぐ読んでみようと思った。
ベテルギウスの超新星爆発に関する話題は2010年1月10日付け朝日新聞に
「オリオン座の1等星「ベテルギウス」で、超新星爆発へ向かうと見られる兆候が観測されている・・爆発は数万年後かもしれないが、明日でもおかしくない!」
と言うようなセンセーショナル記事が掲載され又昨年1月に場合によっては2012年までに爆発が見られる可能性があるとの報告も出され、話題を呼んだのを記憶していたからだ。
前述の書評に
「最期の時を迎えると華々しく散る星がある。いわゆる超新星だ。
本書は、超新星について、一般向けに易しく書かれている。
一冊読めば、超新星について、ほとんど全てのことがわかるだろう。
題名にあるベテルギウスは、誰でも知っている冬の星座「オリオン」の一番星だ。
近い将来、超新星爆発により、ベテルギウスは、満月のような明るさとなり、やがて星空から消えてゆくと言われている(後略)。」
とある。
おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンとで冬の大三角を形作る、オリオン座のベテルギウスは赤色超巨星と呼ばれる巨大な星である。
全天で9番目に明るく、地球からの見かけの大きさ(視直径)が太陽に次いで2番目に大きい恒星である。
直径は太陽の1千倍で、質量は20倍、地球からの距離は640光年。
太陽系にあるとしたら、地球や火星はおろか木星までが覆われる大きさだ。
重たい星ほど寿命は短く、太陽は100億年、太陽の5倍の質量の星は約1億年、10倍であれば約2600万年。
太陽の8倍以上の質量を持つ星の多くは一生の最後に超新星爆発を起こすことが知られる。
太陽の20倍の質量を持つベテルギウスの一生は短い。
ベテルギウスの場合、星の一生の9割を占めるという水素をヘリウムに変える核融合の1000万年の時代は既に過ぎ、外層が膨らみ始め、赤く大きな赤色超巨星の時代にだいぶ以前に入っているという。
超新星までの数百年はどのような事が起こるのだろうか。
外から見た可視光での明るさは変わらないが中心部では劇的な変化が起こっている。
ヘリウム燃焼段階が終了し、炭素燃焼が開始した地点でのこり数百年、酸素とネオンの燃焼が1年くらい、最後のシリコン燃焼は数日で終了する。
鉄が分解され始めると数秒で超新星だ。
中心温度でヘリウム燃焼が2億度で、炭素燃焼が7億度、あとは終末に向かって急激に上昇し100億度に相当達すると言う。
超新星爆発の際のガンマ線放出については、近年恒星の自転軸から2°の範囲で指向性があることがわかっており、ベテルギウスの自転軸は地球から20°ずれており、ガンマ線バーストが直撃する心配は無いとされる。
超新星爆発した際の明るさについてかに星雲と同規模の爆発と仮定すると、地球からベテルギウスまでの距離は、かに星雲までの距離のほぼ1⁄10であるため明るさは100倍程度と概算できる。
これは半月よりも明るく、昼でも点光源で輝くことになる。
その後は中性子星またはブラックホールとなると考えられている。
ベテルギウスほど地球から近い距離で爆発するのは、前例のないことである。
今まで観測された7回の超新星爆発は、いずれも遠く離れた出来事であり、最も地球に近い爆発(かに星雲900年頃前)でも、ベテルギウスの10倍は離れていた。
今回の爆発は、あまりにも地球から近いため、この爆発が地球にどんな影響をもたらすのか、宇宙の誕生の疑問を解くためにも、戦々恐々としながらも、科学者達は興味津々なのである。
幾度の超新星爆発が我々を構成する元素を作り出したことを想うとなんと悠久で雄大なロマンを感じます。
是非一読を
「ベテルギウスの超新星爆発」 野本陽代著 幻冬舎刊 780円