
小惑星探査機「はやぶさ」が地球から約3億km離れた小惑星「イトカワ」に着陸して、
6月13深夜、オーストラリヤに実に60億キロに及ぶ7年間の旅を、満身創痍の状態で帰還した。
この「頑張る」姿は多くの人々に感動も与えた、大きな騒ぎにもなった。
しかし、大騒ぎするに充分値する内容なのだ。
太陽系の月以外の天体に着陸し、物質を持ち帰ったのは初めてだ。
小惑星は約46億年前の太陽系誕生の時の状態を今に残す。
世界の科学者がカプセルの中身に注目する。
はやぶさがもたらしたのは、それだけではない。
日本の宇宙開発予算は年間約2千億円。
米航空宇宙局(NASA)の10分の1。
はやぶさの開発は約130億円。
少ない予算の枠内で独創性のある新省力プラズマエンジンや、自力着陸制御など開発し、
随所に知恵を絞って、小さく軽く割安の探査機をつくりあげた。
停滞気味の日本のモノづくりの能力やチームワークが高く評価されたのだ。
さらに、 地球の兄弟星といわれる金星の気候を詳しく調べるための金星探査機「あかつき」が5月打ち上げられた。
金星の直径は地球の95%、重さも82%とほかの太陽系惑星に比べて共通点は多が、その地表は様変わりである。
高度60kmに白く輝く硫酸の雲。
大気は90気圧の濃い二酸化炭素で、温室効果のために460℃という灼熱の世界だ。
特に、金星全体を取り巻く時速360kmの暴風、スーパーローテーションは特異だ。
地球気象学の常識では、偏西風や貿易風といった大規模な風には惑星の自転がかかわっており、自転速度を超える風が広範囲で吹くことは考えにくい。
実際、地球の偏西風の速さは自転速度のせいぜい1割であるのに金星では60倍もの風速だ。
その発生原因は気象学的にも理由がつかず、金星最大の謎とされてきた。
このスーパーローテーションの原因を解析すれば地球の気象予報の精度向上や温暖化解明に大いに貢献できるのだ。
この「あかつき」にも世界に誇れる日本の技術が採用されている。
ひとつは、6月28日、新規に国内で開発された窒化珪素製セラミックスラスタの軌道制御エンジンの噴射を実施し、
世界初の軌道上実証に成功したことである。
もうひとつは「あかつき」と同時に打ち上げられた宇宙ヨット「イカロス」で、宇宙空間で大きな帆の展開に成功させ、
太陽光による加速の実証もし、6月末には太陽光の圧力を使った姿勢制御に世界で初めて成功したことだ。
帆に張り付けた液晶素子をブラインドのように使い、太陽光の反射具合を調整して受ける力を変えることによって実現した。
宇宙空間で14mもの大きな帆を広げて、太陽の光の圧力で加速する宇宙ヨットの構想は100年前からあったが、
各国が実験に失敗する中、日本の技術により、今回成功させた。
この成功により、将来の木星など遠い惑星の探査に利用できる道を作ったものと大いに評価されるものである。
さらにこのイカロスは巨大星の爆発を観測することにも成功している。
太陽の30倍くらいの重さの星が爆発するときに放出するガンマ線を、イカロスに搭載した検出器がとらえたのだ。
巨大星はガンマ線を放出(バースト)しブラックホールをつくりながら大爆発する。
今後、ガンマ線の中の特定成分を観測できれば世界初の成果となり、爆発のメカニズム解明にも役立つという。
このガンマ線のバーストについては最近大きな話題となっている本「宇宙から恐怖がやってくる」を想いおこす。
この本は、宇宙から地球に降りかかる9つの災厄を科学的に解説したものだ。
その9つとは
1.小惑星の衝突
2.太陽フレア
3.超新星
4.ガンマ線バースト
5.ブラックホール
6.エイリアン襲来
7.太陽の死
8.銀河による破局
9.宇宙の死だ。
もっとも起こる確率が高いのは小惑星の衝突で、平均寿命あたり70万の1の致死率だ。
これはアメリカ人がテロで死ぬ確率よりも高いという。
7、8、9は100%の確率で起こるのだが、最短でも数十億年先の現象である。
超新星の爆発による放射線の影響で死ぬ確率が1000万分の1、
ガンマ線バーストが原因で死ぬ確率は1400万分の1もあるという。
ブラックホールに遭遇して死ぬ確率は1兆分の1だ。
エイリアンは不明。
ガンマ線バースト(GRB)とはブラックホールの現象だ。
物質はブラックホールにどんどん吸い込まれていくが、そのうちに降着円盤という構造ができあがり、やがてビームを形成する。
太陽の10億倍のさらに10億倍のエネルギーが一気にビームに注ぎ込まれる。
このビームが地球を狙っていたら大変なことになる。
100光年先でこの現象が発生すると、地球は一瞬で跡形もなくなる。
夏の怪談ではないが、純科学的な話で、宇宙に関する出来事を大変面白く、分りやすく説明してくれている。
ぜひ一読ください。
「宇宙から恐怖がやってくる」フィリップ・プレイト著
NHK出版・2000円